東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)2号 判決
事実及び理由
一 取消事由1について
原告は、審決が本願考案におけるリーケージトランスと従来装置における抵抗をバラストと認定したことを技術内容の誤認であると主張する。
成立に争いのない甲第四号証によれば、バラストとは、ネルンストグローアー、アーク灯又は水銀ランプと直列に接続されて、この回路の電流値を均等化し放電を継続させるために用いられる抵抗器であること、またバラスト抵抗とは、これに通ずる電流が増加するとき、この抵抗器の温度係数によつて抵抗値が増加し、電流が減少するときはその逆であり、これにかかる電圧がある制限以内で変化するときはこれに通ずる電流を一定に維持する特性を有するものをいうことが認められる。
これに対して、本願考案のリーケージトランスと従来装置の抵抗とは、ともにキセノン電子閃光管の点灯後、直ちに閃光管にかかる電圧を低下させ、放電を停止させるための作用をするものであることは、当事者間に争いがない。
ところで、審決においては、本願考案の要旨について、放電発光時に於ける前記リーケージトランスの二次側磁路のリラクタンスの変化による電圧降下により前記キセノン電子閃光管の放電持続を停止するようにすると認定し、その作用効果として、キセノン電子閃光放電灯の点灯後直ちに放電を停止させて消灯させることを認定していること、又、従来装置については、その技術内容としてキセノン電子閃光管を比較的小時間間隔で繰返放電を行なわせるために、キセノン電子閃光管を変圧器の二次側に整流器と抵抗を直列に介して接続すると認定していること、および抵抗の特性として前記<1>の特性を期待した抵抗に代えと説示していることなどを合せ考えると、審決は、本願考案のリーケージトランスと、従来装置の抵抗を、いずれも放電継続用としてではなく放電持続を停止させるためのものであることを前提としていることが明らかである。そうすると、審決はこの両者をバラストと称してはいるが、その技術内容としては前記の放電を継続させるための抵抗器の意味で使用したものではないと解するのが相当である。
そして、前記のように、本願考案のリーケージトランスと従来装置の抵抗とは、ともにキセノン電子閃光管の点灯後直ちに閃光管にかかる電圧を低下させ、放電を停止させる作用を果すものであるが、この作用は、両者とも、これらに流れる電流が増加したときに、電圧が低下する特性に由来するものにほかならない。通常のバラストも同様の特性を有することは前記のとおりであり、これをネオン管の点灯に用いる場合には、この特性を利用して電流値を一定に維持し、放電を継続させる作用を期待するものである。そうすると、これらは広い意味において共通の特性を利用した電流(放電)制御素子とみることもできる。
このような観点からみると、審決は、本願考案のリーケージトランスと従来装置の抵抗をバラストと称してはいるが、これは、前記の共通する特性に着目して、電流(放電)制御素子の意味において使用したと解されないことはないから、バラストという技術用語の通常の意味内容からみて、審決の使用法は不適切ではあるが、これをもつて技術内容の誤認とまではいうことができない。
ところで、リーケージトランスは、負荷がかかると普通のトランスに直列に抵抗を接続してある場合の抵抗の負荷側電圧よりも、急激に二次電圧が減少することは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、リーケージトランスがこのような特性を有することと、これを利用して、リーケージトランスをネオン管の放電継続用の素子として使用することがいずれも公知であつたことが認められる。
原告は、引用例においては、リーケージトランスをネオン管の放電継続用の素子として使用する旨の説明があるのみで、これをキセノン電子閃光装置の電源用として使用しうる旨の記載はもち論、これを示唆する記載もないと主張する。
審決は、本願考案において、従来装置の抵抗に代え、リーケージトランスを採用したことに格別考案力があるとはいえないと判断しているが、本願考案と従来装置とを比較すると、従来装置の構成要素である変圧器と抵抗とが、本願考案ではリーケージトランスに置き換えられており、その他の要素については両者共通であることは当事者間に争いがないから、審決のいう従来装置の抵抗に代えリーケージトランスを採用することとは、正確にいえば、従来装置の変圧器をリーケージトランスとし、抵抗を除去することにほかならない。
ところで、リーケージトランスが、普通の変圧器とチヨークを直列に接続したものと電気的に等価であることは当事者間に争いがなく、又チヨークが電圧低下素子として、抵抗と電気的に等価であることはいうまでもない。そして、リーケージトランスは前記のとおり負荷がかかると普通の変圧器に直列に抵抗を接続してある場合の抵抗の負荷側電圧よりも、急激に二次電圧が減少する特性を有することが公知であるから、従来装置の変圧器をリーケージトランスとし、抵抗を除去すれば、後記のとおり、比較的小時間間隔の繰返放電を良好になしうることは、当然のことである。してみると、本願考案の課題であるこのような作用効果を期待して、従来装置の変圧器をリーケージトランスとし、抵抗を除去することは、既に周知の電気的に等価なものをその公知の特性を考慮して単に置き換えたに過ぎないから、そこに格別の考案力を要するとは到底いえない。したがつて本願考案の構成について考案力を否定した審決の判断に誤りはない。
二 取消事由2について
原告は、本願考案により、前記第三、一、2の<1>、<2>の作用効果をもたらしたと主張する。成立に争のない甲第二号証(本願明細書)によれば、これらの作用効果を総合したものが、本願考案の課題であるキセノン電子閃光装置において、比較的小時間間隔の繰返放電を良好になしうるという作用効果にほかならない。
前記甲第二号証(本願明細書)によれば、従来装置において、抵抗の抵抗値を小さくすれば、閃光管の点灯電源となるコンデンサの充電電圧の電圧上昇率を速くなしうるが、閃光管の点灯後、閃光管にかかる電圧の低下が不十分となり、閃光管が十分に消灯しなくなることが認められる。
これに対し、従来装置の変圧器をリーケージトランスとし、抵抗を除去すれば、コンデンサの電圧上昇率を速くしても、閃光管の点灯後、閃光管にかかる電圧が、従来装置の場合よりも急激に低下し、閃光管の消灯が確実となるが、これは、普通のトランスに直列に抵抗を接続してある場合よりも急激に二次電圧が減少するというリーケージトランスの公知の特性から生ずる当然の帰結である。してみると、原告が主張する本願考案の前記の作用効果のうち、<1>のキセノン電子閃光放電灯の点灯後、直ちに放電を停止させて消灯させるという作用効果および<2>のうち、従来装置の抵抗よりも電圧上昇率が速いという作用効果は、リーケージトランスの公知の特性から生ずる当然の帰結であつて、格別顕著なものということはできない。
また原告の主張する前記<2>の作用効果のうち、電力損失が少く、それに伴い発熱が少く附近の電気部品に悪影響を与えないという点も、抵抗が発熱素子であるのに対し、変圧器は本来発熱の少いものであるという周知の特性を考慮すれば、本願考案において、従来装置の抵抗を除去して変圧器をリーケージトランスとしたことによる当然の帰結であつて、格別顕著な作用効果ということはできない。
したがつて、原告主張の作用効果を本願考案の進歩性の根拠としなかつた審決の判断に誤りはない。
三 以上のとおり、本件審決には原告主張の違法はなく、違法を理由としてその取消を求める原告の本訴請求は失当である。